「いぬ」「花園メリーゴーランド」「鬼虫」などの柏木ハルコさんの作品です。
【ストーリー】
タイムマシンの実験中の事故によって体を持たずに意識だけが3年後の世界にタイムスリップしてしまった春日琴理。その世界では彼女が思いを寄せる研究のパートナー・竜ヶ崎は琴理を死なせてしまったと思い込み研究からも手を引き、自暴自棄の生活に陥っていた。体を持たない琴理は竜ヶ崎をはじめ誰にも認識すらされない状況に思い悩むが、実験用モルモットに乗り移る事でようやく外界とのコンタクトを取れるようになり、奔走する。
タイムマシンもののSFと言えばありきたりに感じるかもしれませんが、(良い意味での)展開の突拍子のなさと主人公の琴理の魅力的な描き方が非常に生きていますから、漫画誌連載当初からワクワクして読みました。そう、非常に行動的な強さと、竜ヶ崎に対して一途なかわいらしさで琴理というキャラクターがとても魅力的なんです。三十路越えという設定ですから、ただ単にかわいらしい女性というのではない大人のキュートな女性という描き方が個人的にはストライクです。
物語はSFメインかと思いきや人間ドラマの部分を軸にして進行していきますが、舞台がタイムトラベルという事で大きくダイナミックなスケールです。実験用モルモットに乗り移ってしまうという突飛な展開で序盤は進行していくんですけど、持ち前の行動力と一途さで問題に立ち向かう琴理の活躍や挫折の連続にワクワクしました。
物語の後半(単行本4~5巻)あたりでは急展開でしかもタイムマシンものですから未来や過去をマタにかけた複雑な展開になりますから、雑誌連載中はちょっとついていけなくなった部分もありましたけど、単行本を揃えて読み直してみたらようやく理解できました。
それから、科学知識は皆無な僕ですけど、現時点では存在しえないタイムマシンについての科学的な説明も無理なくなされていて、その特殊な設定もすんなり受け入れられるよう工夫されている点にも好感を持ちました。(基本的にフィクションにおける科学的考証などには特にこだわらないというのが私のスタンスではありますけど)
これを書いているのが2008年の年末なんですけど、個人的には今年読んだ漫画作品の中でも5指に入るお気に入り作品となりました。
地平線でダンス(01)地平線でダンス(02)地平線でダンス(03)(全5巻です)
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手塚治虫さんの作品です。
【ストーリー】
異常進化した蟻のギドロンが操る昆虫によって人類は滅亡に危機に陥る。ギドロンから脱走したミクロ化人間・ミクロイドの三人(ヤンマ、アゲハ、マメゾウ)と彼らを唯一理解し協力する美土路博士とその息子・学はギドロンに立ち向かう。
基本的にヒーローが世界を救うために悪者に立ち向かうという王道ストーリーです。導入部分では、ミクロイドの三人が旅をしているシーンから始まるのですが、この時点では彼らが虫のように小さいサイズであるという説明がありません。旅を続けるうちにコヨーテに襲われたり、人間の村にたどり着いたりするところで、ミクロ化人間であるという設定が見えてくるようになってくるのですが、この演出が非常にワクワクします。
ミクロイドの活躍と共に、東京を虫の大群が襲うというパニック描写が執拗に描かれます。この絶望的な恐怖感はスリル満点で、映画の「鳥」や「タランチュラ」のような動物パニックものと同様の面白さです。ヒーローの活躍と恐怖パニックで進行していきますが、読み進むにつれて手塚さんの環境問題に対する訴えやヒューマニズム描写が見えてきてストーリーに味わいを添えます。
個人的には、少年向けの手塚作品の中でもかなりの傑作だと思います。アニメ化もされていたようですけど、見たことがありません。機会があったら是非見てみたいと思います。
楽天ブックスミクロイドS(1)ミクロイドS(2)
手塚治虫さんの作品です。
【ストーリー】
母親が浮気を繰り返し、自身の本当の父親が誰なのかもわからないという不幸な境遇で育った近石昭吾。その境遇が原因で、交尾する虫や動物すら憎らしく思い殺してしまう程、「愛」というもの自体に憎悪を持つようになってしまう。猫を殺し、精神病院へ入った昭吾は、電気ショック治療により見た夢で女神像に「愛を憎んだ罰を受けなければならない」と告げれらる。

「胎児―それは 男と女 オスとメスとの 誠実な愛のしるしである
誠実な愛がなれれば 人類の歴史はつづかなかっただろう」
ラストシーンのこのナレーションがこの作品のテーマとなっています。
性教育をテーマにした手塚作品には少女向けの「ふしぎなメルモ」や少年向けの「やけっぱちのマリア」がありますが、この「アポロの歌」は大人向けに愛と性を扱った作品です。愛を憎んだ罰として、女神から悲恋を次々に体験させられるというつらいつらい悲劇の物語です。壮絶な体験を通して愛を憎む昭吾の心が変化していく様子を通して、手塚治虫さんの愛・性に対する思いが表現されていると思います。
こう書くと重苦しい作品のように感じるかもしれません。確かにテーマは重いですし全体的なトーンも暗いですけど、スピーディーなアクションや、いかにも大人向け手塚作品という感じのヒューマニズム描写が手塚ファンにとっては馴染みやすいと思います。文庫版で2冊というボリュームも適当だと思いますから、トータル的になかなか読みやすい作品に仕上がっていると思います。
「ドラゴンヘッド」などを描いた望月峯太郎さんの作品です。

【ストーリー】
ひとり暮らしの大学生・森ひろしは、ひょんなきっかけから謎の大女に付きまとわれる。日に日にエスカレートする女の異常な行動に、ひろしは精神的・肉体的に追い詰められていく。
発表されたのが1993年ですから、当時はまた「ストーカー」という言葉は一般的でなかった(というか、存在しなかった?)んですけど、時代を先取りした(?)ストーカーの恐怖を描いた作品です。もし現在発表されていたら、「平凡なストーカー漫画」という評価だったかもしれませんが、当時はストーカーなんていう概念がありませんでしたから、鮮烈なインパクトがありましたね。謎の大女のルックスは「貞子」なんかに似ていますけど、この漫画の方が世に出たのが先です。
終始一貫して、理由もないのにある日突然キ○ガイ女に付きまとわれて危害を加えられるという恐怖を描いています。残酷な描写で怖がらせるタイプではなく、心理的に追い込まれるような恐怖です。舞台は全く平凡な大学生の日常の中ですから、非常にリアリティがあります。絵に関しては、不気味さを増幅させるようなカットがテレビドラマのように挿入されるといった工夫がされています。
結末はハッピーエンドであるかバッドエンドであるかは書きませんけど、ちょっと肩透かしというかズバっとスッキリは終わっていません。この辺は評価が分かれる部分かもしれませんけど、私としてはアリかなと思っています。
「うしろの百太郎」
「メギドの火」などの作者の、つのだじろうさんの有名な作品です。
【ストーリー】
霊やオカルトを信じない中学生・鬼形礼。ある夜、彼の家に謎の新聞が届く。新聞の名は「恐怖新聞」。一度読むごとに100日命が縮まるとされる恐怖新聞が配達されるようになって以来、鬼形は”ポルターガイスト”に摂り付かれ、奇妙な事件に巻き込まれるようになる。
つのだじろうさんのオカルト漫画はたくさんありますけど、一番エンターテインメント性が高いというか、漫画として面白く読ませる事を志向されて描かれているように感じます。テーマは「霊魂」「UMA」「UFO」「呪い」など多岐に渡ります。一般的にオカルトに分類されるテーマ以外にも、「時代劇」「教訓話」「埋蔵金発掘」などちょっとイレギュラーなテーマも。。そしてそれぞれを章立てして短編エピソードを重ねて進むケースが多いです。それぞれテーマを深く掘り下げた内容になっているのですが、章立てされていることによって非常に読みやすくなっている部分が私としては高評価です。
そんな中にもやや長めのエピソードもありまして、その完成度も高いです。悪魔に呪われたカソリック神父一家の壮絶な戦いを描いた「悪魔のカード」、ポスターガイストとの最終決戦を描いた最終エピソードの「他人の顔」は特に圧巻のストーリー展開で大傑作だと思います。
私が初めてこの作品を読んだのは小学生の頃ですから、当時は本気で怖がっていましたけど(笑)、今になって読み返してみるとストーリーの良さが出色で漫画としての完成度の高さに感心します。
楽天ブックス(秋田文庫・全5巻)
恐怖新聞(1)↑
恐怖新聞(2)恐怖新聞(3)恐怖新聞(4)恐怖新聞(5)
藤田和日郎さんの作品で、ビッグコミックスピリッツ誌にて2007年に短期連載されました。
【ストーリー】
”見られただけで死ぬ”という恐ろしいフクロウ”ミネルヴァ”。犠牲者が続出する東京にミネルヴァ討伐のために米軍特殊部隊が派遣されたが、その中にかつて一度ミネルヴァをしとめたことのある老マタギ・杣口鵜平の姿が・・・。
パニックものの漫画作品で、最新鋭兵器を駆使する米軍特殊部隊と、旧式の銃の他には自分のマタギとしての力量のみという両極の存在がミネルヴァに対してそえぞれの形で奮闘する様子が、迫力満点のアクション・シーンで描かれています。それだけでも痛快なのですが、そこに自然に対する愛、家族愛がいやみなく盛り込まれていて、単行本1巻で完結というボリュームではありますが最後までテンションを保ったまま読みきれました。ちなみに、ラストシーンで作品の表題の意味が明らかになっていることに気づいてまた感動が上乗せされました。
個人的にはそれほど絵的に好みでないんですけど、スピリッツ誌連載中に作品に引き込まれまして、単行本化されてすぐ購入しました。ついつい絵の好みで選択肢から外してしまっている漫画作品というのは誰にでも少なからずあると思いますけど、それは時にもったいない事であるという事を再認識されられた作品でもあります。
楽天ブックス
大手カメラメーカーのサービスセンター所長を務め、数々のクレーム対応と処理を行ってきた川田茂雄さんの実録作品です。
野鳥撮影海外ツアーにおいて、撮影に失敗したヒステリックな女性ユーザーとの厳しいやり取りの様子や、カメラのレンズに異物が混入していたとして暴力団組事務所に呼び出された話など、読んでいるだけでも胃が痛くなるようなハードなクレーム対応の実例がいくつも生々しく書かれています。
実は私もお客様センターなどの勤務ではありませんでしたが、とあるサービス業の店舗で10年ほど勤務していた経験がありまして、大きなもの、小さなもの含めると数多くのクレーム対応の経験がありますから、非常に思い当たる部分が多くて、もう読むのがキツ面白い感じでした(笑)。
本の内容的には、本当にハードな厳しい体験談が次々と出てくるのですが、ユーモアを交えたライトな文体で書かれていますから、普通に気軽に面白く読める作品になっています。それから感心するのは、クレームをつけてきたユーザーに対する恨み節やバカにしたような態度ではなく、あくまでも「クレームを頂くという事は会社にとってシステムや商品を改善するチャンスで、長い目で見ればありがたいことである」というスタンスで真摯に捉えていることが伝わってくる部分です。筆者の人柄とプロ意識に好感を持ちます。
接客関係の仕事をなさっている方には特に、そうでない人にもお勧めできる一冊です。続編も出ているようです(私は未読です)。
「ぎゅわんぶらー自己中心派」「スーパーヅガン」などの麻雀漫画で有名な片山まさゆきさんの作品です。
【ストーリー】
ワンス・アポン・ア・タイム・イン・中国 漢の国・・・黄巾族が暴れ回る乱世において、中山靖王劉勝の血を引く劉備玄徳は関羽・張飛と義兄弟の契りを結び、義勇軍を結成して黄巾賊を倒すため立ち上がった。
三国志の漫画と言えば横山光輝さんのものが有名でその代名詞になっていますが、このSWEET三国志は、私が稀有な天才ギャグ漫画家だと思っている片山まさゆきさんが、ストーリーのポイントは押さえつつ全編に大ネタ、小ネタのギャグを振りまいて絶妙なバランスでまとめた傑作です。
三国志と言えば個性的なキャラクターたちが登場する物語ですが、SWEETではある意味やりすぎ(笑)なほどにデフォルメされたキャラクターが立ちまくっています。例えば主人公として描かれる劉備は気弱でひとりでは何もできないけどお調子者というキャラ設定でこれはこれでなかなか鋭いところを突いていますし、武闘派の張飛や呂布はプロレスラー姿の筋肉バカになっています。
時代考証などものともせずに、独特の片山節炸裂でシリアスなはずの三国志の物語を笑い飛ばしています。それでも冒頭に書いた通り、史実のポイントはキッチリ押さえているところが素晴らしいです。ボリュームも単行本で全5巻、文庫なら3巻と一気読みできるくらいなんですけど、(終盤は相当飛ばしてますけど)その中にキッチリまとめられています。
三国志という名前は聞いた事があるけど、小説版を読むのは大変そうだし、横山版にしても文庫で30巻というボリュームでなかなか手が出ないという人も多いと思います。その点このライトなギャグ漫画にまとめられているSWEET三国志は、三国志の入門本としても最高だと思います。

「恐怖新聞」「うしろの百太郎」などの代表作を持つ、つのだじろうさんの作品です。
【ストーリー】
平凡な中学生の北斗一生の身の回りに、腕時計が狂う、車道の車が消滅する、顔に北斗七星形のホクロがあらわれるといった不思議な現象が頻発。北斗一生は”宇宙とのコンタクト・マン”と自称する美少女・星琴絵と出会い自身もUFOからコンタクト・マンに任命され、様々な超常現象を体験する。
つのだじろうさんのオカルト漫画としては、幽霊、超能力、UMA、UFOなど、テーマが超常現象全般に渡る「恐怖新聞」や、テーマが幽霊に絞られた「うしろの百太郎」が有名ですが、この作品「メギドの火」のテーマはUFOとノストラダムスの諸世紀です。どちらかというとつのだ作品の中ではマイナーな部類ですけど、私としてはかなり好きな作品です。
主人公・北斗一生がUFOからの指令を受けて”宇宙とのコンタクト・マン”に任命されるワケですが、UFO関連のテーマに、いわゆる「ノストラダムスの大予言」のつのだじろう流の解釈を下敷きにした壮大な物語を巻き込んだダイナミックなストーリーになっています。展開が突拍子もなさ過ぎてカオスな様相を呈するわけですけど(笑)、ここまで強烈な暴走ぶりは他のつのだ作品に比べても出色です。
つのだじろうさんの作品は、シリアスでダイナミックなストーリー展開を素直に楽しむのも良いのですけど、細かい部分でツッコミを入れつつ笑うというナナメ向きからの楽しみ方もできるので、ある意味2度おいしいです。この作品でもヒロインの星琴絵が北斗一生のクラスの転入してきた際に自己紹介で「星琴絵です、ニックネームはベガです!」と言い放つという、普通だったら転入初日としては相当思い切った行動をとってみたり、相当ハイレベルな笑いが含まれています。実にいいもの見ました。
現在はちょっと入手しづらくなっているようですけど、文庫版の古本では時々見かけますからもし見つけたらぜひお読みいただくことをおすすめします。ボリュームも文庫版で全2巻とお手ごろですから。
田中圭一さんの作品です。
手塚治虫さんのファンの方、特にたくさんの作品を読んできたような方にぜひ読んでいただきたい一冊です。何がどう「最低漫画全集」なのか、おわかりいただけると思います。ただしこの場合の「最低」は「最高」と同義語です。
何がすごいって、手塚治虫さん本人が描いたようなソックリなタッチで描かれた登場人物が下ネタ満載のお下劣ギャクを連発するんです。全く素晴らしいとしかいいようがありません。手塚タッチそっくりな登場人物と書きましたけど、手塚治虫さんの作品に出てくる登場人物を使っているのではなく、いかにも手塚治虫さんが描きそうな登場人物であるという部分がまた素晴らしいです。
しかも手塚プロ公認というのが笑います。何せオビに手塚るみ子さんが「ライオン・キングは許せても田中圭一は許せません」なんて書いているくらいですからね。イキな対応ですよねぇ。
楽天ブックス
「ルサンチマン」の花沢健吾さんの作品です。
【ストーリー】
うだつの上がらないサラリーマン田西敏行27歳は会社の後輩社員のちはるに思いを寄せる。ライバル会社のイケメン社員青山のはからいでちはるとの距離を縮めるが、あるきっかけでちはるは青山の元へと去る。その青山がちはるに対してひどい仕打ちをした上振ったと知った田西は、青山に決闘を申し込むが・・・。
前作の「ルサンチマン」でも顕著でしたが、うだつの上がらない男を描かせたらこの人は相当なものです。仕事も中途半端、27歳にして腹には贅肉がついて、ついでに素人童貞。ただひたすらに無様な主人公・田西の姿を手を変え品を替え見せられたら、次の段階ではある程度カタルシスのある展開を予想してしまいますが、この作品の場合それは通用しません。現実の世界は厳しいと言いますけど、漫画でありますからキツイ部分がデフォルメされている分、現実よりももっと厳しく感じられるほどです。
ハタから見ればもう完敗も完敗の連戦連敗で負け続けるわけですが、それでも田西はなんだかんだで前を進み続ける事をやめないんです。しかもとてもカッコ悪い走り方で。読み慣れてくるとそれがなんとも面白くなってくるんですけど、心の芯の部分ではやっぱりキッツイんです。水戸黄門のような勧善懲悪という様式美とは真逆です。それを最初から最後まで貫き通した、そんな作品です。
楽天ブックス
ボーイズ・オン・ザ・ラン(4)ボーイズ・オン・ザ・ラン(5)ボーイズ・オン・ザ・ラン(6)ボーイズ・オン・ザ・ラン(7)ボーイズ・オン・ザ・ラン(8)(全10巻です)
名ロックギタリストを草の根的に紹介した本です。
使用楽器、テクニックの部分にスポットを当てた形でそのギター演奏の特色や素晴らしさが顕著にあらわれているレコードを紹介するような形になっています。基本的に1ページにひとりのギタリストについてまとめてあり、最初から順番に読んでいくもよし、好きなギタリストの部分を拾い読みするもよしの、ギタリスト図鑑的な本です。
私は漫画や本と同様にロックを聴いたり演奏したりするのが大好きなんです。憧れのギターヒーローのページを読むのはもちろんですが、よく知らないギタリストのページも興味を持って読みました。その記事がきっかけでCDを買ってみてファンになってみたり、なかなか活用できた一冊となりました。
音楽評論本にはよくある傾向ですが、筆者の主観が強すぎる感じはあります。ただ、読み物としてはなかなか面白いし資料的な意味でも価値のある一冊だと思います。
楽天ブックス
手塚治虫さんのストーリー漫画の中でも、過激な性や狂気の描写が特徴の作品ですが、スリリングでダイナミックなストーリー展開で、息つく間もなく一気に読ませる大傑作です。
【ストーリー】
エリート銀行マンの結城美知夫の裏の顔は凶悪殺人犯であった。旧友賀来神父の元で懺悔をする結城であったが、実は2人は同性愛者として肉体関係を結んでいた。少年時代、沖ノ真船島を訪れた2人は、島に駐留する某国軍の化学兵器「MW(ムウ)」が漏洩事故に巻き込まれ、大量の島民の変死を目の当たりにしそのトラウマと毒ガスを吸ったショックから、結城の心に狂気が芽生える。物語は事件当事者への復讐として次々と凶悪事件を繰り替えす結城と、結城を救済すべく奔走する賀来神父の姿を描く。
漫画好きな私ですが、ごたぶんに漏れず手塚治虫さんの作品を数多く読み漁りました。こういったシリアス・ストーリー系の作品は「きりひと讃歌」「奇子」など数多いですが、この「MW」は特にショッキングで印象に残っています。いわゆるピカレスク・ロマンなのですが、主人公の結城美知夫の狂気と残虐性の描写が恐ろしいほどです。ストーリーの中で次第に明かされていく事件の真相と、エスカレートする結城の犯罪行為の描写によって、物語がどんどん加速していくような印象があります。
ところで、2009年公開予定で映画化されているようですね。必ず見に行こうと思います。
映画・MW公式サイトそれから、
こちらのサイトでチラ読みできるようです。
楽天ブックスMW(ムウ)(1)MW(ムウ)(2)
阪急(オリックス)と阪神で活躍した星野伸之さんの野球人生を自らつづった野球ファンにおすすめの一冊です。
130キロに満たない遅い直球とスローカーブ、フォークだけでプロ野球通算176勝、2041奪三振を記録した”細腕の大エース”星野伸之さん。彼の独特の野球観、投球理論、名打者との勝負の回顧など、プロの第一線で長年活躍した選手ならではの視点で詳細に語られています。
元々プロ野球好きでしかも星野投手の大ファンであった私にとってはバイブルのような本です。豪腕、剛球で打者をキリキリ舞いさせるようないわゆる正統派の本格派投手とは違って星野投手は遅い直球とスローカーブを中心に打者の裏をかく投球を身上としていました。しかし、ただの”軟投派”という投手ではなかったことがよくわかる本です。タマは遅くとも、自身を本格派だと思っていたそうです。
投球理論も独特です。理想の配球でカッコ良く打者を打ち取るのが投手の理想であろうと思えるのですが、星野投手の場合は「結果オーライOK」「打ち取った当たりでもアウトにできなければ意味がない」「行き当たりばったりの配球」などと、ちょっと意外に思えるような記述が見て取れます。ただしこれは言うまでもなく適当でいいかげんな投球というわけではなく、さすが個性派の大エースという理論と自信に基づいたものである事もわかります。
こういった深い深い内容の野球論から、ブライアント、松井秀喜、秦真司、落合博光、らとの印象深い対戦の回顧記事なども実に面白いです。さらに元チームメイトのイチローや長谷川滋利とのエピソードなど、盛りだくさんの内容となっています。
楽天ブックス
テーマ:オススメの本 - ジャンル:本・雑誌
「ドラゴン桜」などの代表作を持つ三田紀房さんの高校野球漫画です。
【ストーリー】
一年生ながら夏の高校野球の地区予選にエース投手の故障などによって緊急先発登板した鎌倉西高校の四ノ宮だが、9回裏勝利目前で突然崩れサヨナラ負けを喫する。敗戦のショックから立ち直るきっかけは甲子園出場校の監督経験を持つ部長・貞兼の「普通のストライクを取れる投手」という言葉。投手としての成長の階段を登り始めた四ノ宮の成長とともに、鎌西校は県下屈指の強豪校へと躍進してゆく。
三田紀房さんの高校野球漫画として有名な「クロカン」は監督視点で描いた高校野球漫画の傑作ですが、「甲子園へ行こう!」はどちらかというと選手視点、全体的にはチーム全体を描いた作品となっています。私は高校野球に携わった経験はありませんからあくまで印象でしかありませんが、かなりリアルに高校野球というものを描いているように感じます。魔球や剛速球を投げる天才投手が活躍するような物語ではなく、主人公はあくまで普通の投手であった四ノ宮ですし、チームも普通の部活として野球をやっている弱小公立高校です。
そんな普通の投手を擁する普通の高校野球チームが強豪へと成長していくわけですが、練習シーンの描き方にしても試合での戦略面にしても非常に理論的で説得力があります。そして、実際強豪へと成長していくワケですが、連戦連勝というわけではなく普通に負けもします。それだけに、試合の部分を読むのが実際の野球を見るのと同じようにハラハラドキドキと楽しめます。ついつい必死に鎌西を応援している自分に気づくこともしばしばです。
それから、試合だけでなく練習や選手の日常も非常に丁寧に描かれていますから、主人公の四ノ宮だけでなく他のチームメイトや対戦チームのライバル選手にも感情移入することができます。ちょっと気持ち悪い言い方ですけど「青春っていいなァ」って感じですね(笑)。
野球漫画は大好きで本当にたくさんの作品を読んできましたけど、個人的にはベスト3に入る好きな作品です。
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