
藤子不二雄Aさんのライフワーク的な作品です。
【ストーリー】
漫画をきっかけに意気投合したふたりの少年・満賀道雄と才野茂が漫画家を目指して互いに切磋琢磨しながら成長する過程を描いた長編大河漫画。
満賀道雄のモデルは作者の藤子不二雄Aさん自身、才野茂のモデルは藤子・F・不二雄さん。物語は満賀の目線で進行する、漫画家・藤子不二雄の自伝的作品です。テレビのインタビューで語っていたのを見たのですが、この「まんが道」の内容の大半は実話だそうです。まさに自伝と言えると思います。個人的には、本当に大好きな作品で特別な存在です。
体が小さくいじめられっこで漫画を描くのが大好きな満賀が転校した小学校のクラスで天才的な才能を持つ才野と出会い意気投合するところから物語は始まります。そして中学、高校への進学と学生生活、漫賀の新聞記者と漫画の二足のわらじの生活、漫画家としてのデビューと上京、漫画家としての活躍という物語が丁寧に描かれています。
さらに当時の漫画少年たちにとっての”神様”手塚治虫の存在や、現在とは違った漫画出版業界の情況、石ノ森章太郎さんや赤塚不二夫さん、寺田ヒロオさん、つのだじろうさんら青春時代を共にすごした仲間とのエピソードなど、実体験を下敷きにしているだけあって実に生き生きと描かれています。ある意味、当時の漫画業界を知るための資料としても貴重な一面があるように感じます。
藤子不二雄Aさんのライフワークとも言える作品ですから、そうとうにボリュームのある作品です。それだけにひとつひとつのエピソードが丁寧に描かれていて読み応え満点です。学生時代の手塚治虫さんに対するリスペクト、新聞社勤務時代の後輩女子社員への恋のエピソード、漫画家として初めて単行本が出版された時の感動、連載打ち切りという厳しい現実、そして売れっ子となった矢先の原稿落としで干されてしまう話などなど・・・それぞれ心情が丁寧に描写されていて本当に感情移入できます。そう、本当に感情移入できる作品なんです。藤子不二雄Aさんは、主人公の内面の描写が本当に上手ですから、読んでいて「ああ、あるある、こういう気持ちって!」と身につまされることもしばしばです。
派生作品として、続編の位置づけの「愛…しりそめし頃に…」がビックコミックオリジナル増刊に連載中で、こちらは単行本も続刊中です。その単行本には毎回巻末に寺田ヒロオさんからの手紙や、当時の連載漫画「ロケットくん」のレプリカなど、豪華な付録がついていてお勧めです。
そして映像化された作品として、NHK銀河テレビ小説「まんが道」があります。1986年に放映されたテレビドラマで、満賀役を竹本孝之さん、才野役を長江健二さんが好演しています。原作のテイストを大切にドラマ化されていて、非常に面白いドラマに仕上がっています。何度見ても感動してしまいます。
以下余談ですけど、私がこの作品に始めて触れたのは小学生の頃でした。当時、「藤子不二雄ランド」という週に一冊発売される単行本がありました。藤子不二雄さんの過去の名作を復刻するというコンセプトの企画だったんですけど、まんが道は(ちょっと記憶があいまいですけど)月に一巻ずつくらいのペースで刊行されていたように思います。新しい巻の発売日を心待ちにして、毎回発売日に買って読んでいました。
その藤子不二雄ランド版の巻末に漫画の描き方講座のような付録が載っていまして、同じくまんが道にハマっていた友人と一緒にペンとか雲形定規なんかの道具を買い集めまして、満賀と才野のマネをしてふたりで漫画を描いて雑誌を作ったという思い出があります。今では漫画を描く事は全くありませんけど、まんが道という作品とともに本当に楽しい思い出になっています。
楽天ブックス中公コミック文庫版まんが道(1) まんが道(2) まんが道(3)まんが道(4) まんが道(5) まんが道(6)まんが道(7) まんが道(8) まんが道(9)まんが道(10) まんが道(11) まんが道(12)まんが道(13) まんが道(14)テレビドラマ(銀河テレビ小説)DVDまんが道Vol.1/
まんが道Vol.2青春編
唐沢なをきさんの作品です。
【概要】
「機動戦士ガンダム」特にいわゆる「ファーストガンダム」のストーリーで展開しますが、登場人物が全て犬、登場するモビルスーツ(人型兵器)は全て郷土玩具に置き換えられています。
登場人物が犬、モビルスーツが郷土玩具というところからもわかるように、シリアスなはずのガンダムの物語を爆笑漫画に改作したような作品になっています。お下品なギャグの連続で進行しますけど、唐沢なをきさん特有の、元作品に対する並々ならぬ愛情が感じられます。ただいたずらにガンダムをハバカバカしく描いたものとは一線を画する内容となっています。と、ちょっと堅苦しく書いてしまいましたけど、本当にバカバカしくて大笑いできます。何かあるとすぐ他人(他犬?)の尻をなめたがる登場人物。なぜなら犬だから(笑)。
・・・といったトーンで延々続くんですけど、そこは天才・唐沢なをきさん。全く退屈させません。とにかく犬である事に対しての徹底さが素晴らしいです。筆者のガンダムに対する愛情同様に、犬の生態に関する徹底的なこだわりもまた笑いを誘います。あまりにくだらないと言えばくだらないんですけど、犬でガンダムを描くというコンセプトを徹頭徹尾やり切っている部分が最高です。
機動戦士ガンダムの劇場版でいうところの、哀・戦士編までのストーリーが「地上編」、それ以降が「宇宙編」として単行本にまとめられています。
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吾妻ひでおさんの作品です。
【概要】
作者の吾妻ひでおさんの失踪体験を漫画化したノンフィクションです。「夜を歩く」「街を歩く」「アル中病棟」の3つのエピソードが収録されています。
そうとうにヘヴィな失踪体験、アル中病棟での体験が描かれています。明るいトーンで進行していますが、拾ったテンプラ油や畑から盗んだ大根で飢えをしのいだり、自殺未遂をしたり、アル中で幻覚を見たりといったエピソードなど、リアルな迫力があります。非常に生々しいです。
ただ感心するのは、それほどまでに生々しく厳しい失踪体験談が延々と続くんですけど、本当に読んでいてツラくなるような描き方をしておらず、主人公(=吾妻さん本人)の表情は終始ノホホンとお気楽で、娯楽作品として楽しく読めるようになっているところです。これについては、あまりに厳しくツライ描写をあえて避けて描いたんだそうです。
それから、漫画ではなくエッセイ形式にまとめられた「逃亡日記」という本も合わせて読むとより楽しめると思います。
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野球漫画の大家、水島新司さんの作品です。
【ストーリー】
プロ野球球団東京メッツの個性的な選手たちのエピソードがオムニバス形式で語られる。「水原勇気編」は、史上初の女性プロ野球選手・水原勇気のメッツ入団、魔球・ドリームボールの完成、そしてドリームボールの生みの親ともいえる元チームメイトの武藤との真剣勝負でクライマックスを迎える。
超個性的な選手たちが目白押しのプロ野球球団・東京メッツを中心に展開しますが、その個性派選手たちの活躍や人間ドラマがオムニバス形式で描かれています。50歳を過ぎてよれよれになっても現役投手として投げ続ける「よれよれ18番・岩田鉄五郎」、酒に酔っての投球でボールまで酔っ払っている(?)「酒仙投手・日の本盛」、歌舞伎の女形から転身したスラッガー「藤娘・国立玉一郎」、不思議なジンクスによって奇妙な活躍をする「甚久須」などなど、とにかく破天荒なキャラクターたちの暴れっぷりと”野球狂”っぷりがとても楽しい作品です。
そして言わずと知れたこの作品の代名詞的キャラクターの「水原勇気編」は他のキャラクターのように短編でのエピソードではなく、文庫版でも5巻分丸々続く長編になっています。女子高校野球のエース投手だった水原が岩田鉄五郎に説得されてプロ野球の世界に飛び込むところから物語は始まり、当時の「女性は選手登録できない」という野球協約の突破、先輩捕手の武藤平吉との出会い、そして魔球・ドリームボールの完成、クライマックスでは広島カープに移籍した武藤平吉との真剣勝負・・・実に丁寧に、アツく描かれています。
プロ野球といういかつい男の世界で臆する事なく苦難を突破しようとする水原のけなげな姿がとても魅力的です。その魅力というのはストーリーやキャラクターの性格づけももちろん秀逸なんですけど、絵もとても素晴らしいです。ページ上部の画像は、ドリームボールを投ずる水原のフォームですけど、何と美しいことか!余談ですけど、水島新司さんは野球のプレーの絵を本当に大切にされているそうです。それをあらわすエピソードとして、元々のストーリーでは外野フライを打ったシーンだったのに、あまりに打撃フォームが美しく描けたのでホームランにしてしまった事があるそうです(笑)。
それから、テレビアニメ版も原作の良さが存分に詰まった仕上がりになっていますから、最高の作品だと思います。